研修に参加する度にICTの効果的な活用イメージを広げていく中学校の理科教員
- 学校名
- 九重町立ここのえ緑陽中学校
今回のインタビュー対象者は九重町立ここのえ緑陽中学校の石川琴美先生です。石川先生は、令和4年度に他県のICT先進校の研修視察に参加したそうです。この時に、ICTを効果的に活用した授業づくりに魅力を感じ、強く関心を持ち始めたそうです。令和5年度には、独立行政法人教職員支援機構が実施した「学校教育の情報化指導者養成研修」に参加し、ICTの効果的な活用イメージをさらに広げることができたそうです。石川先生が感じたICTを活用した授業づくりの魅力とはどのようなものなのでしょうか。そして、石川先生は、研修で学んだことを、どのように広げ、学校教育の情報化を推進していこうと考えているのでしょうか?
九重町立ここのえ緑陽中学校の理科担当、石川琴美先生
まずは、自己紹介をお願いします。ご自身とICTとの関わりについても教えてください。
石川先生:九重町立ここのえ緑陽中学校で理科の担当をしている石川琴美です。以前は高校で化学を担当していました。また、小学校や特別支援学校で勤務した経験もあります。私は、中学校教員として採用されるまで、大分県内の講師として、様々な校種の現場に立ってきました。高校で講師をしていた時は、生徒たちに対して、「ここまでは中学校でしっかりと学んできてほしい」と思うことがありました。今は、自分自身が中学校の教員となったので、「ここまではしっかりと中学校で学ばせてから卒業させなければならない」という気持ちで勤務しています。
ICTとの関わりだと、校内のICT推進担当をしていますね。私自身はICTに詳しい教員だとは思っていません。ただし、ICTには関心を持ち、効果的な活用方法について学び、積極的に活用しています。昨年、愛知県のICT先進校である春日井市の小・中学校の研修視察に参加しました。ICTを活用した学びの姿に衝撃を受けましたね。児童達はランドセルを置くと、すぐにタブレットを開き、スケジュールを確認し、係の仕事や授業の準備をしていました。授業前も、授業中も常にタブレットを活用していました。児童同士がチャットでコミュニケーションを取り、学びの進行をしていたことにも驚きました。1人で学びたい児童は1人で学び、相談しながら学びたい人は相手を探していましたね。それぞれが求める学び方を実現していたのです。私がICTを活用した授業改善に強い関心を持ち、取り組み始めたのは、この時の衝撃的な学びの姿を見てからですね。
Googleスプレッドシートの共同編集機能が、新しい学びの形をもたらした
中学校の理科の授業ではどのようにICTを活用していますか?具体的な利用場面や活用方法を教えてください。
石川先生:実験を動画で撮影させたり、Chromebookを使って資料を作らせたりしています。Googleスプレッドシートの共同編集機能も活用させています。GoogleスプレッドシートはExcelに似た表計算のソフトです。これを使えば、複数の生徒が同時に編集や確認をすることができます。理科の実験の前に、1つのシートに仮説を書き込むように指示することがあります。リアルタイムで全員の考えが共有できるので、素早く共有し、共通点や違いなどに気づかせたい場面ではとても便利だと感じています。
Chromebookが配備される前までは、ノートに書き込み、自信のある生徒が手を挙げ、発表していました。Googleスプレッドシートを使えば、他の生徒の考えを確認しながら書き込むことができるので、自分や班の意見を整理し、まとめることがより容易になります。手を挙げ発表できなかった生徒も、書き込んだ時点で意見が共有されているので、発表のハードルがすごく下がるのです。これまで発表することに少なからず抵抗を感じていた⽣徒が活躍する機会を得られているように感じますね。
自分の考えがリアルタイムで共有されるということは、思考の過程に適宜、他者参照の機会が導入されているということです。人の考えを参考にしながら自分の考えを創り出すことは、真似ではないのかという意見もありそうですよね。授業において、「考えを創り出す」という行為の定義自体が変わっているようにも思えるのです。今は、膨大な情報が溢れる情報社会ですよね。お互いに意見を交換し、協力しながら意思決定をする。それが「自分の考えを主体的に創り出す」ということにつながっているのではないでしょうか。
学校教育の情報化指導者養成研修での一番の学びは、教師達の学び方自体だった
石川先生は、独立行政法人教職員支援機構が実施した「学校教育の情報化指導者養成研修」に参加されたと伺っています。これはどのような研修だったのでしょうか?
石川先生:簡単に言うと、教師のICT活用指導力を向上するための勉強会ですね。全国の小学校、中学校、義務教育学校、高等学校の先生方(各都道府県2名程度)を対象にオンラインにて、3日間実施されました。個人としてICTの効果的な活用方法を学ぶだけでなく、学校という組織全体で情報化を推進するために、ICT担当がどう働きかけるべきなのかということを幅広く学ぶことができました。
学校教育の情報化指導者養成研修で、特に印象に残ったのはどのような学びだったのでしょうか?
石川先生:ICT活用指導力の向上についての講義ですね。他県の先生方(研修の受講者)とたくさん交流できたのが特によかったです。研修中に受講者同士がチャットで考えをシェアできることが印象に残りました。これまでは講演中に受講者が講演内容について会話をするのは「タブー」に近いと見られていたと思います。この研修では、講師の方が話していることについて、他の受講者達とチャットで意見交換できたのです。これにより即時的に自分の考えが深まったり、補完されたりしていきましたね。チャット機能の学習における可能性を十分に感じることができました。
中学生に必要な情報モラル教育とは
学校教育の情報化指導者養成研修でも、情報モラル教育についての講義があったと伺っています。今の中学生に必要な情報モラル教育とはどのようなものだと思いますか?
石川先生:Chromebookは学習者用端末として生徒達に配布されています。生徒達が「学習者用」という配布の目的に沿って使い続けることの難しさを感じることはあります。きっと全国の生徒達の方が詳しいと思いますが、学習者用端末においても、フィルタリングにかからないweb上のゲームサイトを発見することはできます。授業中に、授業とは関係のないサイトを見ようと思えば見ることができるのです。中学生から高校生にかけては、自律心を伸ばしていく必要があると思います。年齢が上がっていくと、人生の目標や学びに参加する意味が明確になり、自分を律することができる学習者へと成長していくと思います。中学生はその成長過程のように思いますね。フィルタリングという機能でアクセスできるサイトに制限をかけることはできますが、そうすれば、生徒達は、別のサイトを見つけていくことでしょう。もちろん、フィルタリングも有効な手段の1つだとは思いますが、それだけでは、自律心は育ちません。学びとは関係のないサイトの誘惑に負けてしまった生徒を見つけては、自律心の成長を促していく指導をしていくしかないと思います。制限だけでなく、内発性や自律心を育むためのメッセージを伝えていかないといけないと感じています。上からの押し付けではなく、共に学びの場を作っていく対等な存在として、何のために学ぶのか、今何をすべきなのかを伝えていきたいと思います。
先生方のICT活用指導力を高めるために必要なこと
先生方のICT活用指導力を高めるために必要なことはどのようなことだと思われますか?
石川先生:まずは、ICTを使うこと。そして、わからなければわからないとヘルプを出すこと。シンプルですが、この2つだと思います。
使うという点に関していうと、生徒の出欠をChromebookで確認していくようになったので、これまでChromebookの使用頻度が低かった先生も、毎日使用するようになりました。これは大きな一歩ですよね。日常的な業務にICTを組み込んでいくことで、ICTが先生方の身近な存在になっていくと思っています。
わからないと思った時に頼りになる存在が、ICT教育サポーターですね。毎週、来てくれているので、私もどんどん質問していますよ。わからないことに出会ったら、それはICTの学びのスタート地点だと考えています。新しい学びとの出会いであり、新しいスキルを習得するチャンスだと思います。
教師間の情報共有にチャットを活用
ICTを効果的に活用した学びについて、これから石川先生が挑戦していきたいことはありますか?
石川先生:校内の教師間の情報共有にチャットを活用していきたいですね。これまで校内の情報共有にはホワイトボードへの書き込みが活用されてきました。でも、ホワイトボードだとその場に行かないと確認できませんよね。チャットは、スピードが違います。チャットで意見を交換し、スピード感をもって新しい考えを創り出すことだってできます。
まず、教師間でチャットを活用するようになれば、授業で生徒にチャットを使わせる先生が増えてくると思います。お互いの意見をシェアし、対話する機会を増やす、自律的な学びのツールとして活用していけたら理想ですね。
もちろん、生徒が学びに関係のないことにチャットを利用してしまうのではないかという心配はあります。しかし、「学校の中でなら、いくらでも失敗したらいい」とも思うのです。この「学校では失敗したらいい」は、学校教育の情報化指導者養成研修でも出てきた言葉なのです。学校は失敗し、反省し、成長するところですよね。例えば、誰かを傷つける言葉を書き込んでしまったとします。もちろん、良くないことですよね。起きない方が良いに決まっています。しかし、学校の端末で書き込まれたならば、記録も残るし指導もしやすいのも事実です。でも、学校の外ならばどうでしょうか。学校や教育委員会が管理していない端末ならどうでしょうか。教師は把握することができません。気がつかないままだと、指導もできません。私たちが気づくことができる端末で、指導ができる私たちがいる環境で、生徒達が、様々な失敗することには意味があると思います。ピンチをチャンスに変える好機ととらえてみてはいかがでしょう。
まとめ
「ICTについて、詳しいわけではないのです。」と言いながらも、ICTをどう活用したいか明確にイメージを持たれていた石川先生。ICTを活用する学びについて、生徒達の今と未来を考えながら語る姿がとても印象に残りました。
識者が語るICT教育はもちろん学びがあり、説得力もあります。しかし、今まさに、生徒達と向き合い、ICT教育について語る石川先生の意見は、ICTに苦手意識を持っている先生方にも受け入れられるものなのではないでしょうか。