「令和5年度大分県教育実践者表彰」のICT分野で教職員13名が受賞!長年の思いが形になるまで

取材者プロフィール
佐藤 朋美 / 淵野 恭子
佐藤 朋美 / 淵野 恭子さとう  ともみ            ふちの  きょうこさん
所属・役職
教諭    / 校長
学校名
佐伯市立直川小学校

令和5年度大分県教育実践者表彰において、ICTの分野で教職員13名が団体で受賞した佐伯市立直川小学校。ICTはそれほど得意ではなかったという淵野校長先生は、いかにして校内のICTの効果的な活用を推進し、子どもたちの情報活用能力の育成と教職員のICT活用指導力の向上に繋げていったのでしょうか。また、佐藤朋美先生は小学校1年生の担任としてどのような工夫をして子どもたちの情報活用能力を育成しているのでしょうか。今回は、お二人を対象にしてGIGAスクールインタビューを行いました。

淵野校長先生と佐藤先生の自己紹介

まずは、淵野校長先生、自己紹介をお願いします。

淵野校長:佐伯市立直川小学校校長の淵野恭子と申します。直川小学校は、佐伯市学校教育活動チャレンジ支援事業(ICT教育分野)を受けて2年目になります。ICT教育を推進しようと思ったきっかけは、4年前に熊本県の小学校での研究発表会を見たことです。その学校では、10年前から1人1台端末を実現させている学校だったので、発表内容や、そのクオリティーに大変驚きました。そして、同時に「今のままでは置いていかれる。時代の変化に対応していかなければならない。」危機感を覚え、心を奮い立たせたことを覚えています。現在は2年前に赴任した直川小学校で、ICTの効果的な活用推進に取り組んでいます。ICT活用の幅を広げるため、日々、チャレンジを続けております。

続いて、佐藤先生、自己紹介をお願いします。

 

佐藤先生:佐伯市立直川小学校の佐藤朋美と申します。教員になって4年目です。直川小学校に赴任して1年目になります。現在は1年生の担任と、生徒指導を担当しております。以前勤務していた学校でもICTの効果的な活用実践には取り組んでいたのですが、直川小学校に来て、校長先生をはじめ、同僚の先生方にたくさんのことを教えていただいています。学級の中ではもちろんですが、全校に生徒指導担当としてお話をする際、より伝わるようにということで、スライドを作成し提示するなどして、ICTを活用しています。

佐伯市立直川小学校

淵野校長先生と佐藤先生が勤務する佐伯市立直川小学校

「令和5年度大分県教育実践者表彰」で佐伯市立直川小学校の教職員が学習指導(ICT教育)の分野で受賞

どのような点が「令和5年度大分県教育実践者表彰」での受賞に繋がったのでしょうか?

淵野校長:1つ目は遠隔交流を行っていたことです。2つ目は教職員が各教科で効果的なICT活用を実践したことです。それらによって子どもたちの情報活用能力はもちろんのこと、学習意欲や表現力が高まった点が評価対象になったと思います。特に私が一番だと思っている点は、それを教職員全員で実践したということです。ICT活用があまり得意でない教職員もいました。授業を持たない教職員もいました。しかし、なるべく多くの場面でICT機器に触れて慣れてもらい、授業内、委員会活動、その他様々な場面でどのような活用方法があるか、全員で実践交流をして模索してきました。その積み重ねが大きかったのだと思います。

iPadを見ながらの振り返り~いつもの風景~

遠隔交流は年間32回も!遠隔で他校と一緒にピーナッツの収穫!?

直川小学校では授業内でICTをどのように活用しているのでしょうか?

淵野校長:直川小学校が積極的に行った取り組みの一つにICTを活用した遠隔交流があります。今年度の遠隔交流は、県内の学校は9回、県外の学校は11回、海外の学校は4回、企業が6回、家庭が2回の計32回行いました。それぞれが単発のイベントではなく、年間の学習指導計画の中に位置づけることを意識して取り組んできました。

本校の子どもたちに必要な力は、問題解決能力、表現力、情報活用能力だと考えています。これらの力を育てるために、遠隔交流が有効なのではないかと思ったのです。直川小学校は全校児童40名の小さな小学校で、中学校を卒業するまで、ほとんど同じメンバーです。お互いを深く知っている間柄なので、伝えたいことも試行錯誤せず簡単に伝わってしまう環境にいます。自分たちのことを知らない人に自分たちの学校を紹介したり、自分たちの住んでいる地域の魅力を伝えたりする経験を積ませたいと思いました。自分の思いや考えを伝え、相手のことも知る活動は、子どもたちにとっても指導者にとっても有意義な経験になったと思います。

佐藤先生:私は1年生7人の学級担任をしています。私が本校に赴任した時点で、私よりも子どもたちの方が子どもたち同士をよく知っている状況でした。遠隔交流を実施して感じたことは、子どもたちの伝える力が伸びていったということです。子どもたちは、遠隔交流の際、自分の伝えたいことが伝わらないということを感じていたようです。「なぜ伝わらないのかな。」「どうしたらもっと伝わるだろう。」という課題意識が生まれ、学校を紹介するプレゼンをブラッシュアップしていくことになりました。少人数の環境の中でこれまで考えたこともなかった、「自分のことを相手に伝わりやすいように伝える方法」ということを、子どもたちみんなで考えていくことによって、「伝える」ことに対する姿勢が変わったのだと感じています。

また、広がりを持った学習ができる遠隔交流も積極的に単元計画の中に取り入れました。7人のクラスということもあり、他校と交流することで、より多くの対話が生まれたと思います。ピーナッツを育てて収穫するという場面があったのですが、他校とZoomで繋いだ状態で行いました。子どもたちは、他校の子どもたちに「こんなにたくさん採れたよ。」「こんな形のものがあったよ。」など、感じたことや発見したことを、より多くの人数で共有し合うことができたのです。遠隔交流は、普段の人数ではなかなかできない経験ができる貴重な学びの機会ととらえています。

学習活動の中で、ICTを積極的に活用する児童の様子

「ひと・モノ・コト」でICT環境を整え、教職員全員で推進。ICT活用指導力の向上を図る。

直川小学校のICTの環境整備の取り組みについて教えてください。

淵野校長:直川小学校の校長として「ひと・モノ・コト」の環境を整えてきました。赴任した際、ICTの環境が整っていない状況を見て、校長として改善できることをリストアップして実行してきました。突っ走ってきたという感じです。

ICTの環境整備の「ひと」とは人材育成と人材活用のことです。人材育成に関しては、校内にICTが得意な人がいなかったということもあり、最初は、私がやっていくしかない状況でした。私自身はICTに関するスペシャリストではなかったので、ICT支援員を活用し2人で中心となって推進していきました。何度も「やるしかない。」と自分自身に言い聞かせてきました。教職員に授業内で積極的かつ効果的にICTを活用してもらうよう、指導やサポートを行いました。

「モノ」とは物的な環境整備のことです。ヘッドセット、タッチペン、児童机の拡張天板は全校児童分を揃えました。学習者用端末はもちろん、その周辺機器についても、1人ずつ配置することは、子どもたちがそれぞれの進捗度に合わせて学びを進めるために最低限必要な整備だと感じています。

「コト」とは約束事や企画のことです。約束事とは学習者用端末の使用ルールや、情報モラル、セキュリティポリシー、情報リテラシーなどのことです。これらのことをまずは、教職員に学んでもらうことにしました。約束事については、教職員が学びを深め、次に子どもや保護者に広げていくことにしました。保護者向けに「おとなのiPadを学ぶ会」という時間を設け、使い方だけではなく、ICTを活用した学びの重要性やメリット、使用にあたって気を付けなければならないことを共有しました。もう一つの「コト」である企画とは、遠隔交流や各教科における授業での効果的なICT活用など1人1台端末の整備状況下ならでは学びのことを指しています。

環境を整えながら並行してやってきたのは、校内研修です。使える環境があっても使う「ひと」がいなければ宝の持ち腐れになります。校内研修の計画を立案し、ICT活用について、知識と技能を持つ「ひと」を「校長とICT支援員」から「教職員全員」へと広げるよう尽力しました。

教職員に対しては、とにかく授業で「使ってみる」ことから始めました。「使い慣れる」「使いこなす」「使っていかす」という流れで、一歩一歩、教員のICT活用指導力の向上を図っていきました。先日、本校の教職員に「ICT活用についてひと言」というアンケートに回答してもらいました。回答の一部を紹介します。

(直川小の教職員の方々による「ICT活用についてひと言」の回答)

「使い初めの頃は使い方がわからず消極的だったが、今では欠かせないものになっている」「子どもたちが主体的かつ意欲的に活用していて、深い学びにつながっている」
「授業改善だけでなく、校務の効率化にもつながっている」
「特別支援学級の児童にとっては視覚的に理解しやすく、興味関心を持ち、進んで学習することができている。指導者が工夫しながら活用することで学習活動がより深まる」

回答にもあるように、本校の教職員は導入当初からICT活用が得意だったわけではありません。しかし、教職員同士で協力し合い、少しずつ使い方を理解し、授業や校務で使用頻度を増やしていくことで、着実にICT活用の幅が広がっていったと感じています。

ICTを活用した授業をする佐藤先生の様子

ICTの効果的な活用を意識した授業に挑戦し続ける佐藤先生

直川小学校 教職員のICT活用指導力の向上への道のり

ICT活用指導力の向上への道のりについて教えてください。

淵野校長:2年前赴任したタイミングで、学校教育の情報化を推進する総括責任者(学校CIO)として「なぜICT教育が必要なのか」ということを、教職員全員に向けて話しました。Society5.0の時代を生きていく子どもたちの情報活用能力を育成することは教育者の使命だと思います。こうした話と共に、校内の教育情報化のビジョンを示しました。ICTに苦手意識を持っていた教員は不安気な表情を浮かべていましたが、「みんなでやる」「失敗OK!」「合い言葉はTry&Error」「とにかくやってみよう!」と声を掛けました。

実際に始めてみると、機器トラブルなども出てきました。授業中に教員から、ICTに関わることで困ったと声が挙がれば、私が教室まで行って即時解決に努めました。私だけでは解決できないものはICT支援員に連絡をして、迅速に対応することを心がけました。

また、令和4年度は、教員のICT活用指導力に関する学校独自アンケートを実施し、令和5年度は子どもたちの情報活用能力を確かめるためのチェックリストを作成しました。教員と子どもたちの現状把握をすることで、課題が明確になり、効果的なアクションを起こすことができたと思います。

佐藤先生:直川小学校に赴任した頃は、Zoomの仕方、遠隔交流の仕方、授業内でのICT活用方法などわからないことがほとんどでした。こうした部分は校長先生をはじめ、ICT支援員の方や周りの先生方のサポートを受けてできるようになっていきました。授業に関しては、1年生の担当ということもあって、ICTをどの場面で、どのように活用していけば良いのか難しさを感じることもありました。1年生という学年は、文字を打ち込むことも難しい学年です。まずは、学習者用端末に慣れてもらうために、持ち方や写真の撮影の仕方などを指導しました。同僚の先生方の活用方法を参考にしながら、授業支援システムの「ロイロノート・スクール」を使用して、子どもたち同士でオリジナルのクイズを作らせたり、国語の音読スキルの向上のために録音機能を使わせたりする活用場面を設定することもできるようになりました。

「自分の考えをまとめ・表現する場面でのICT活用」を意識した授業実践に取り組む佐藤先生

「ICTを使うこと」を目的化しない。子どもたちにとって必要な学びを必要な形で届ける。

ICTの活用場面を単元計画の中に取り入れる際に留意していることはありますか?

淵野校長:ICTを使うことを目的化しないことが重要です。ICTは、「情報収集・選択、整理・分析、記録、共有、まとめ・表現」など、ほぼ全ての学習場面において活用することができます。ただし、ICTを使わない方が良い場面にも注目する必要があると思います。例えば、「書く、切る、貼る、作図する」など、手を動かしたり指先を使ったりすることで覚え、記憶に定着することもあると思います。アナログとデジタルをどのように融合させるかについては、ICTを活用する場面を考える上で大切にするべき視点だと思います。ICTの効果的な活用を模索していく中で、「この場面はICTを活用するべきではなかった。」という気づきも生まれます。子どもたちにとって必要な学びを必要な形で届けることが大切だと思います。

ICTは教員の働き方や役に立つツール。

ICTに関して実践していきたいことや思いを教えてください。

佐藤先生:私は、単元計画を紙のノートに記入していきながら作成することが多いです。これからは「ロイロノート・スクール」で作成して、単元計画を校内で共有していこうと考えています。例えば、私が体調不良などで授業ができなくなった時に、他の先生が代わって授業を実施することができると思います。今年度の同僚だけでなく、次年度以降も1年生の担当になった方の参考にもなるかもしれません。共有のしやすさは、ICT活用の大きなメリットだと思います。

淵野校長:今とこれからを生きる子どもたちの情報活用能力を育成することは、教育者の大きな使命です。ICTを活用した学びには時空を超えた学びがあります。時間・空間・仲間の枠を超えて学べます。子どもたちには、ICTを効果的に活用し、自立した主体的な学習者になってほしいと思います。「自分が苦手だと感じたものを認知し、復習する。」「わからないことは自分で調べる。」「相談できる相手を探し、助言を求める。」こうした自立した学びの流れの役に立つものがICTだと思います。新しい教育の創造だけでなく、働き方改革にも大いに役立っています。こう使ったらおもしろい、こうやったら役立つなど、楽しくCreativeに活用していきたいです。

お話を伺って

教育現場でのICT導入を、自らの行動を持って推進していき、実現させた淵野校長先生。大分県教育実践者表彰ICT分野での受賞に至る背景には、淵野校長先生をはじめ、多くの先生方の試行錯誤と、子ども達にとって必要な学びを届けたいという思いが多く込められていると感じました。また、佐藤先生のお話からは、遠隔交流を行うことによって、人数が少ない学校でも様々な交流が生まれ、学びの幅が広がっていくことが伝わってきました。今後、ICTを効果的に活用した授業がどのような発展を遂げていくのかとても楽しみです。