高校生が特許を取得!「DAIKO風車・水車プロジェクト」がもたらしたものとは?

取材者プロフィール
佐藤 新太郎
佐藤 新太郎さとう しんたろうさん
学校名
大分県立大分工業高等学校

令和5年度大分県教育実践者表彰において「機械科教育」「地域との連携・協働」の分野で受賞された大分県立大分工業高等学校の佐藤新太郎先生。これまでの教育実践の中で、新しい製品を生徒たちと一緒に作り上げ、生徒に特許権を3回取得させた経験があるそうです。その教育実践と成果は大分県内のみならず、全国的にも注目されています。本日は、佐藤先生に、探究的な学びの実践やICTの効果的な活用についてお話を伺いたいと思います。

佐藤先生の自己紹介

まずは、自己紹介をお願いします。

佐藤先生:大分県立大分工業高等学校で機械科の教員をしている佐藤新太郎です。知的財産に関する教育に力を入れています。生徒たちには、新しく何かを生み出す喜びを、作りあげていくプロセスの中で、学んでほしいと思っています。新しい製品を生徒と一緒に作り、生徒たちに特許権を取得させたことも3回あります。

現在赴任している大分県立大分工業高等学校も、特許庁の外郭団体である「独立行政法人 工業所有権情報・研修館」が運営する「知財力開発校支援事業」の研究指定校に認定されています。

令和5年度からは全国各地の研究指定校に対して助言を行うアドバイザーも務めさせてもらっています。大分県立大分工業高等学校に赴任した令和3年からは「DAIKO風車・水車プロジェクト」と銘打った電力発電機を作ることで社会に貢献していく活動に指導者として携わりました。

大分県立大分工業高等学校

佐藤先生が勤務している大分県立大分工業高等学校

「日本経済新聞社主催 全国高校生SDGsコンテスト」の最優秀賞を受賞した「DAIKO水車プロジェクト」

自己紹介の中で紹介された取り組みについて詳しくお聞かせください。「DAIKO風車・水車プロジェクト」について説明をお願いします。

佐藤先生:「風車プロジェクト」は令和3年度に始めました。当時、本校に転勤してきて、いきなり3年生のクラス担任を任されました。クラスの生徒は高校最後の年ということもあって、担任としてはクラスを1つにしたいという思いから、クラスでできるものづくりの活動はないかと模索していたのです。

プロジェクトを始めた当時は、まだ、SDGsという言葉がそこまで浸透していなかったと思います。そこで大看板を設置して、その看板を再生可能エネルギーの風車を使って発電し、電灯で照らそうという取り組みが始まりました。しかし、単管パイプを使ったことで危険性もあり、法律上、クリアできない部分があったのです。残念でしたが、取り壊しをしました。

やはり悔しかったです。「このままじゃ引き下がれない。何かできることはないだろうか?」と思いながら日々過ごしていました。そうしたタイミングで、高校生が夜道で危ない目にあった事案が起きたのです。その夜道は、大分工業高校の通学路ということもあり、生徒と一緒に「何かできることはないか」とアイディアを出し合いました。そこは、街灯のない真っ暗な道だったので、防犯灯で照らそうとなったのです。

生徒と一緒に現地調査に行った時、近くに川が流れていることに注目しました。水車を使って発電する方向性が決まり、「DAIKO風車プロジェクト」の学びを引き継ぐ、「DAIKO水車プロジェクト」が本格的に始動したのです。

「DAIKO水車プロジェクト」の活動の様子

企業や大学と連携して取り組んだことや、環境に配慮しつつ水車の開発を行ったことが高く評価され、令和4年の「全国高校生SDGsコンテスト(日本経済新聞社主催)」では、最優秀賞を受賞することができました。水車の改良を進め、令和5年の「パテントコンテスト(文部科学省等主催)」では優秀賞を受賞し、弁理士さんの指導助言もあり、特許を出願しました。

特許第7314433号「携帯自立型発電機」 ※特許情報プラットホーム「J-PlatPat」 https:// https://www.j-platpat.inpit.go.jp/より

インタビューに答えてくださる佐藤新太郎先生

生徒たちと取り組んだプロジェクトについて楽しそうに語る佐藤先生

パテントコンテストの副賞で深まった学び

知的財産に関する教育については、前任校でも取り組んでいたそうですね。お話を聞かせて下さい。

佐藤先生:大分県立宇佐産業科学高等学校に赴任していた際、アイディアを競う「パテントコンテスト」で、主催者賞を受賞することができました。全国的な新型コロナウイルスの感染状況の拡大により学校教育も大きな影響を受けていた時期でした。それまでは当たり前にできていた、校外活動も制限がかかっていましたね。「生徒たちが目を輝かせて取り組めるようなこと、地域や世の中の役に立てるようなことはないだろうか」と生徒たちと共に、考え続けていました。そして、生徒たちから「地域の働く方々のために、フェイスシールドを製作してみたい」というアイディアが出てきたのです。

実際に働く方々の意見を集めながらフェイスシールドの製作を進めました。宇佐産業科学高校には、立派な3Dプリンターがあったので、3次元CAD(3Dデータの作成をコンピュータで行える支援ツール)の勉強にもなりました。中心となって取り組んでいた生徒は、別府市から通っていたのですが、3次元CADの勉強や設計を、電車の中でずっと繰り返していたそうです。

開発したものを、アイディアを競う「パテントコンテスト」にエントリーして、特許を出願してみようということになりました。いいアイディアに対しては、副賞として、弁理士立ち合いのもと実際に特許出願のプロセスも学ぶことができるのです。フェイスシールドの開発の取り組みが評価され、受賞できたことで、東京都にある特許庁見学等のイベントも用意されていましたが、全国的な新型コロナウイルスの感染状況の拡大により、残念ながら中止となりました。しかし、受賞できただけでも生徒たちはとても喜んでいました。

特許第6997891号「フェイスシールド」 ※特許情報プラットホーム「J-PlatPat」 https:// https://www.j-platpat.inpit.go.jp/より

授業を行う様子

機械科の教員として授業を行う佐藤先生

授業だけでなくコンテストの練習でも積極的に活用

ここまでは、探究的な学びの実践について話を聞かせていただきました。ここからは、ICT活用について、お話を伺わせていただきます。機械科の授業や探究的な学びの実践の中で、生徒さんたちは、学習者用端末をどのように活用しているでしょうか。

佐藤先生:主に記録用の撮影として使用しています。1人1台の学習者用端末を配布してからは、生徒たちの記録の仕方が大きく変わったと思いました。メモではなく、写真撮影することで、時間短縮にもなりますし、情報量が圧倒的に違ってきます。授業では、実験を行う際には、画像や動画として記録に残すという使い方を積極的にしています。学習者用端末であるiPadは、カメラを起動させたり、必要な情報を引き出したりするまでのスピードが早い端末です。生徒たちは、学習に役立つ便利なツールとして、毎日、利用していますね。

オンライン会議もよく活用しています。「DAIKO水車プロジェクト」に取り組んでいた際は、プレゼン練習の後押しになりました。各種コンテストの発表に向けて、やはりプレゼンを作り込む必要がありました。近年、コンテストにおいて提出を求められるものが変わってきていて、プレゼン用のスライドだけでなく、動画の提出も求められるようになりました。生徒たちは、端末を使ってスライドや動画の編集を行って、コンテストに向けてアウトプットの準備を楽しそうにしていました。端末を使うことで、練習の場所や時間の選択肢も増えました。端末を気軽に使えるようになったことは、各種コンテストでの受賞に大きく繋がったと感じています。

生徒が端末を使って授業を記録する様子

1人1台端末が配備されてから大きく変化した記録の取り方

わからないことを気軽に質問できる環境づくりが大切

GIGAスクールが始まってからは、先生方がICT機器を授業や校務で使用することが増えているそうですね。先生方がICT活用指導力を高めていくために必要なことはどのようなことだと思いますか?

佐藤先生:わからないことはわからないと、先生方が言える環境を整えていくことが非常に大切なのではないかと思います。私自身が「DAIKO水車プロジェクト」に取り組んだ当初、本当にわからないことだらけだったのです。その際、大学の先生や地域の社長さんに指導・助言をいただきました。わからない時は、頼れる人を見つけ、相談することが大切だと思います。ICT活用については、頼れるICT教育サポーター(各県立学校を週1回訪問するICT支援員)の方々がいますから、ありがたいですよね。

ICTについて、わからないことがあったら、まずは、自分で少し調べてみることが大切だと思います。それでもわからない場合は、同僚やICT教育サポーターさんに聞いたらよいと思います。

私は、生徒に質問することも良いことだと思います。生徒が教えてくれたのなら、「すごいね。ありがとう。」と認め、伝えていくべきですよね。ほめられて、感謝された生徒は、さらに自信をつけて、情報活用能力をさらに伸ばしていくと思います。生徒から学ぼうとする姿勢もICT活用指導力の向上につながると思います。

ベテランの先生とタブレットを触る様子

ベテランの先生とタブレットを触る様子

DAIKO水車プロジェクトを海外へ

今後、挑戦していきたいことはどのようなことですか?

佐藤先生:特許をとった水車をケニアに持って行きたいと考えています。ケニアは夜の電力が乏しく、勉強ができなくて困っている子どもたちがたくさんいるそうです。そういった地域に水車を提供してあげられたらと考えています。実は令和5年の夏に、ボランティアアワードという大会(歌手のさだまさしさんが主催)があり、そこに招待していただいたのです。そこで審査員をされていた医療ボランティアをされているお医者さんに、「この水車をケニアの子どもたちのために活用できないだろうか?」とご提案をいただいたのです。現在、その実用化に向けて活動を始めたところです。

「DAIKO水車プロジェクト」の挑戦は続く

生徒たちが何か夢中になれること、地域や世の中の役に立つことを始めたいと思って動き出した「DAIKO風車・水車プロジェクト」でした。それが、各種コンテストでの受賞を経て、海外展開に繋がっていくとは、予想もしていませんでした。

失敗や成功、悔しいことや嬉しいことがありました。生徒たちと一緒にやってきて良かったと感じています。これからも生徒たちと共に、学び続けていこうと思います。

お話を伺って

今回のインタビューでは、佐藤先生に、探究的な学びの実践やICT活用についてお話を伺いました。先生自身が生徒共に学び続けていく姿勢を持っているからこそ、生徒たちも学ぶことに夢中になっていくのだと感じました。また、ICT活用については、学習活動のための情報収集や記録の仕方が、大きく変化していることがわかりました。1人1台の学習者用端末が整備されたことで、子どもたちが様々な場面で気軽に使えるツールとして活用できていることがすばらしいと思いました。

大分県立大分工業高等学校の佐藤先生や生徒の皆さんの今後の挑戦や活躍がとても楽しみです。