プレゼンコンテストに指導者として参加し続ける中学校国語科の教員
- 学校名
- 大分県立大分豊府中学校
大分県立大分豊府中学校 江藤大介 教諭
江藤先生は国語の授業で活用しつつ、プレゼンを取り入れながら毎年、大分県教育委員会が開催しているプレゼンテーションコンテストに積極的に生徒をエントリーさせ続けています。そんな江藤先生にICT利活用について、どのような想いを抱いているのか、そして、今後どのように活用していきたいのか、お話を伺いました。
江藤教諭のご紹介
現在、教員歴11年目で大分県立大分豊府中学校にて3年生の担任をしている江藤先生は、これまでに開催された「1人1台端末を活用した小・中学生プレゼンテーションコンテスト」の全ての大会に指導者として参加しているといいます。
江藤先生:玖珠町で教員をしていた時に、勤務先であった玖珠町立八幡中学校が廃校になる年を迎えました。その年に指導していた生徒たちが学校の歴史についてプレゼンにまとめ、初回のプレゼンコンテストに出場しました。その後、大分豊府中学校に異動して授業の中にプレゼンを取り入れ、プレゼンコンテストに指導者として参加し続けるようになりました。
大分豊府中学校独自の選択科目で「コミュニケーション国語(C国)」というものがあり、プレゼンとは何かというところから始まり、週1回を目処に前期で合計16時間ほどかけて作り上げていく授業を行います。3年生になるとC国ではなく「ファンデーション国語(F国)」となります。C国は、国語を通して表現力や思考力を養い、F国は高校の国語に向けた基礎作りや応用力、読解力などをつけていく時間となります。1・2年生はC国を、3年生はF国を行います。
目的を達成させるための手段として取り入れたプレゼンテーション
プレゼンコンテストへの出場を最終的な目標として授業を行っているのでしょうか。
江藤先生:最初は3人1組で班を作ってプレゼンコンテストに出場していたのですが、令和4年度のプレゼンコンテストでは120人程がエントリーし、進路を見据えて大学の学問分野からテーマを決めてプレゼンする形をとりました。同じような内容になる子がいれば一緒にやってもいいし、1人でやりたければそれでも良いという形にしたら「1人でやる」という子が多くいました。
C国の中の活動としてプレゼンを取り入れていますが、コンテストが最終目標なのではなく国語科の目標を達成するための延長線上にプレゼンコンテストがあるからエントリーしているという状況です。生徒たちの目標というか、エントリーした生徒全員が本選に出場できるわけではないけれど、出場した生徒の中で賞を獲得できる子がいるというのも目に見えるゴール地点だと思っています。
生徒自身がテーマを決め、情報収集・プレゼン作成を行う
プレゼンではどのようにICTを活用しているのでしょうか。
江藤先生:プレゼンの内容に関しては生徒にとって取り組みやすいように「生徒自身が興味のあること」を考えてもらって、そのテーマで結論として何を伝えたいのかを考えるようにします。
作業を進めていくにあたって結論が変わることもありますが、プレゼン中のゴールを最初に決めておき、そのためにどんな情報・データが必要なのかを調べていきます。昨年のプレゼンでの大きなテーマは学問分野に絞っていました。先行的な研究で、どのようなことをしているのかなど既出の内容を単に調べて発表するだけでは面白くないと思い、中学生ならではの少し飛躍した発想も許可して、プレゼン作成をさせてみることに挑戦しました。
文房具の1つとして日々の国語の授業でタブレットを活用
日々の授業においてどのようにICTを活用しているのでしょうか(国語科との相性について)。
江藤先生:プレゼンに関してではなく日常の国語の授業でいうと、タブレットで「MetaMoJi ClassRoom」というアプリを使用して漢字などの小テストを行っています。事前にテストと回答をアプリ内に準備しておいて、生徒たちが直接タブレットに書き込み、時間が来たら各自でまる付けをしていく形をとっています。授業支援システムを活用すると資料の配布も成果物の回収も楽でPDF化もすぐにできます。授業を開始して3〜5分程で小テストを実施でき、時間のある子はやり直しまでできるのでとても便利です。
一方、グループディスカッションで使うワークシートなどの場合、紙に書きたい生徒もいれば、タブレットを使いたい生徒もいるので、両方選べるようにしています。国語の先生だとノートの取り方や字の書き方の指導を大切にしている方もいます。もちろんそれも大切なことだと思いますが、せっかくタブレットを配布しているのに使わないのは勿体無いとも思います。私は、板書などはノートとタブレットどちらにするかを生徒に任せています。
学生のうちにプレゼンの基礎を学んでほしい
どのような思いをもってプレゼンの取り組みを実践しているのでしょうか。
江藤先生:プレゼンは現在、社会に出たら当たり前のように必要なスキルになっていると思います。教員にとっても学校現場や研修などで必要になってきています。様々な企業でも、商品を売り込んでいくために使用しますよね。伝えたいことを伝えるために、プレゼンの構成を考えながら相手が見やすい資料作りができる力を高めていくことは大切なことだと思います。学生のうちに、最低限のプレゼンの基礎を学んでほしいと考えて取り組んでいます。
プレゼンをすることによって、自分自身の考えを整理したり、たくさん調べること自体が、自分の進路に繋がったり、新しいことや自分の得手不得手を知れたりと興味や知識の幅が広がっていると思います。
生徒自身の魅力を引き出せている
プレゼンコンテストに出場することによって、生徒たちにはどのような成長が見込まれるのでしょうか。
江藤先生:ICTの活用について考えた時に、字が苦手な生徒や発表が苦手な生徒は、自分の意見を発表したり書いたりすることが億劫になってしまうのです。しかし、タブレットを使用することによって自分の意見や主張を表現できるようになっていると思います。
生徒たちを見ていて、学習活動や生徒会活動で、積極的にプレゼン資料を作ることが上手になってきていると思います。また、人前で自分の考えを表現すること自体に、抵抗が少なくなってきていると思います。
人前で発表するのが嫌だと言う生徒はもちろんいます。しかし、回数を重ねるごとに声が大きくなり、最終的には「この生徒はこんなに喋れるのか」「この生徒の表現力は一級品だな」など新たな発見に繋がっていく喜びもあります。
「ICTで授業をする」のではなく「授業でICTを使う」
タブレットの導入に関して、生徒だけでなく先生側でもICT活用に苦手意識を持ち、上手くICTを利活用できない方もいるかと思います。先生には、ICTの導入に抵抗感はなかったのでしょうか。
江藤先生:最初にタブレット端末を使い始めたのは大分県教育委員会が実施したICTスマートデザイナー育成事業に参加した時でした。私自身、元々ICT機器を扱うことに対して抵抗感はなかったのですが、最初は、「授業でタブレット端末を使わないといけない」と言う気持ちに駆られてしまっていました。タブレット端末を使うことでどのような効果があるのかを考えていく必要があったと思います。
最初の頃は、生徒同士が話してはいるものの、ずっと画面を見ている状況もありました。こうした状況から、「ICTを使わないといけない」と考えるのをやめてみたのです。実際に、書くという経験も大切ですから、作文や記述などをする際は紙を使うようにしました。自分の意見をまとめたり、ワークシートに少し書き込んだりする場面では、タブレット端末を使わせるようにしました。まずは、教師が考え、「使う場面」「使わない場面」の選択肢を持つようにしました。その後、生徒たちにも考えさせ、「使う」「使わない」を選択させるようにしたのです。
毎年、文部科学省が教員のICT活用指導力についての自己評価を質問していますが、苦手意識を持つ教員が約5人に1人はいるようです。大分県としてもICT活用指導力を高めていくことが大切だと考えていますが、そのために必要なことについて江藤先生の考えを伺いました。
江藤先生:大分豊府中学校ではどの年齢層の教員でもICTを使っています。わからなくてもとりあえずは、使ってみるべきだと思います。ICT機器の多くにいえることですが、間違えたら「戻るボタン」がありますよね。ICTを活用した教育実践でも、色々な方法を試してみて、間違えたら少し前に戻ればよいと思います。ICT機器が効果的に使える場面を見つけていけば良いと思います。
私は名簿チェックや集計作業のために、タブレットでExcel(エクセル)の数式を活用しています。数式はあまり得意ではないのですが、興味があるから調べているというのもあります。一つデータを作っておけば後でも使え、一回覚えたら他の業務でも応用が効くのですよね。ICTを使ったら後から楽できるかもしれないと考えて、今は試行錯誤しながら様々なことにICTを活用しています。
生成AIの考え方は一つの提案として取り入れる
生成AI(生成的人工知能)について、授業内外においてどのような活用ができると考えますか?
江藤先生:どのような回答をされるのか興味を持ち、ChatGPTにクラスの学級目標を聞いてみたところ、実態には合わない提案をされました。当然のことですが、学級目標などは、自分たちで考えた方が良いと思いました。グループディスカッションで「先端技術に自分たちがどう関わっていくか」を主として考えさせた時に、ChatGPTをテーマにした班もいました。生徒たちは、生成AIの使い方を真剣に考えていました。生徒たちの結論としては、「AIからの提案は、一つの考え方・捉え方として取り入れるべき」というものでした。生徒たちがここまで考えられるのはすごいことですよね。生成AIについても、体験させて、使い方を考えさせることが大切だと思います。
言葉の意味を調べる時はChatGPTでも良いと思います。しかし、感想文や意見文を書く時には、生成AIを活用すべきではありません。自分で考えて作成した文章の方が書き手自身の内面を表現することができて、読み手にとっては面白いものができあがると思います。語彙力は別として言葉の活用で言えば、生成AIよりも人間の方が上手いと思います。提案を丸々使ってしまうのではなく情報の一つとして受け取る程度に納めておくべきです。私自身、生成AIをどのように使っていくかは模索中ですね。
興味関心探究のためのツールの一つとしてのICT
若い世代の教員(後輩)やICTを教育活動に取り入れていきたいと考えている人たちに対してどのようなことを伝えていきたいですか?
江藤先生:ベテランの先生は様々な授業のテクニックや経験を持っているので、授業を見た時に勉強にも参考にもなるのでありがたい存在ですよね。まずは、真似をすることが大切ですが、それだけで終わってしまってはいけないと思います。先輩方に教えてもらったことに、自分自身の考えをプラスしていけば、新しく時代に合った教育スタイルが確立できると思います。
ICTについては、使うことがゴールになってしまわないように気をつけるべきです。授業でICTを活用しながら効果的な活用を追求していくことが大切だと思います。
大分県は全体的にICT機器の整備状況が充実していると思いますが、導入している機器やシステムには違いもあるため、異動した時に今まで自分がやってきたものをどう活かせるかが課題ですね。異動したとしても、とりあえず新しい機器やシステムを使ってみて、何がどこまでできるのかを模索しこうと思います。ICT機器を味方にして、授業改善につなげたり、仕事の効率化を図ったりすることが大切だと思います。
まとめ
江藤先生は、生徒自身にICT活用のタイミングや方法を考えさせ、選択させることを大切にされていました。ICTを活用して、国語の授業にプレゼンを取り入れることで生徒たちの成長が実感できるそうです。話を伺いながら私が学生の頃にも、ICT機器を活用したり、プレゼンを取り入れたりする教育を受けたかったと感じました。
ICT活用については、苦手意識があるという方もいますが、江藤先生がおっしゃっていたように「とりあえず使ってみる」というところから始めてみることが大切だと思いました。江藤先生は、子どもたちや自分自身のために、今後も授業や校務でICTの効果的な活用について使いながら考えていくそうです。