大分県立大分舞鶴高等学校

ヒートアイランド抑制研究Ⅱ~土の特性から見る最適な路面材舗装の解明~

学校・学年

高等学校
大分県立大分舞鶴高等学校

発表形式

レポート・論文

研究の概要

日本各地で健康被害をもたらしているヒートアイランドの抑制の要素は様々だが,今年度は昨年度と同様に路面材舗装に引き続き注目した。明確に路面材舗装に適していると判断できる用土を見つけるために,表面温度の変化に差が見られると期待できると考えた気温の高い日に実験を行った。また,「蒸発量」・「保水量」・「反射率」・「通気性」といった土の特性に注目して,表面温度の逓減率が高い用土とその特性との関係の解明を調べた。その結果,表面温度の逓減率が最も大きい用土はボラ土であった。また,その要因として通気性に大きく依存していることが分かった。

生徒のアウトプット

実践の背景
昨年度の先行研究では,秋に用土を用いて散水後の100分間の温度変化を測った。すると,ピートモスが最も温度減少幅が大きかった。しかし,6種類の用土全てが,4度から7度程度,温度が減少しており,どの土も温度減少幅の差は僅差であり,逓減率の良し悪しをつけ難かった。そのため私たちは,本当に最も温度を下げる効果のある用土がピートモスなのかについて疑問に思った。そこで,私たちは,昨年の研究を引き継ぎ,用土の温度の上がりやすさに差が見られそうな気温の高い条件で調べて逓減率の最も高い土を調べた。また,用土の特性として,「蒸発量」・「保水量」・「反射率」・「通気性」について調べ,逓減率の高さの要因を探った。また,今回は土の性質を詳しく調べるために,用土に化学物質などの異物を混ぜない純粋な試料でという条件の下で調査を行った。
仮説
仮説1.用土の表面温度が下がる最大の要因は,蒸発量であり,その大きさに比例する。
仮説2.ボラ土が最も温度抑制に有効な路面材だ。
調査・研究内容
ヒートアイランド現象について
ヒートアイランド現象とは郊外に比べ都市部など気温が島状に高くなる現象である。主な原因として、建物や工場、自動車などの人工排熱の増加や緑地の減少とアスファルトやコンクリート面などの拡大による地表面の人工化,建物の高密度化による風通しの阻害などが考えられている。


路面材について
道路は,上から順に表層,路盤,路床から構成されている。私たちは,この表層部分をアスファルトから用土に代替し,降水による温度上昇抑制の実験を行った。また,今回使用した土は,全国的に比較的多く存在している以下の6種類の土を用いた。

表1.各用土について
用土名       粒径 (㎜)     密度(g/㎤)     成因
A.赤玉土      5(球状)      1.32        赤土
B.燻炭       2(針状)      0.76        籾殻を炭化
C.ボラ土      7(球状)      1.38        宮崎台地下層土の軽石
D.パーライト    5(球状)      0.77        真珠石を砕き高温処理
E.ピートモス    2(繊維状)      0.69        ミズゴケを泥炭化
F.バーミキュライト 2~10(平面構造)   0.89        蛭石を高温処理・膨張


予備調査
1.各用土の表面温度の変化の調査
(1)目的
 ヒートアイランド現象の影響が大きい夏に表面温度の変化を調べ,先行研究での温度の下がり方が,日射の強い時期でも,適応するかどうか調べる。
(2)方法
①使用道具…以下を道具Aのものとして使用した。
イージーセンス,ビーカー,用土6種類(表1.),水…(A)
②実験手順
ⅰ) 用土400㎤を500㎤容器のビーカーの中に敷いて,日光に十分に土を晒した。ビーカーで実験を行うことによって実験の簡易化を測った。
ⅱ) 各用土の表面に100mlの水を散水し,6種類の用土の表面温度をイージーセンスで10分毎に測定した。
(3)結果
表2.用土の表面温度の逓減率 (用土は表1の表記)
用土   C   A   D   F   E   B
t(℃)   -8.2  -2.8  -1.9  -1.4  +1.7  +3.6
(開始前)天気:快晴,風:北4m/s,気温:33.0℃,湿度:76%
(終了後)天気:快晴,風:北西4m/s,気温32.5℃,湿度65%

 全体的に80分後以降に温度の低下が見られ始めた。逓減率が最も大きかったのは,ボラ土であり,赤玉土,バーミキュライト,パーライトは2度程度の温度減少が認められた。ピートモスと燻炭は,温度が上昇した。

調査の考察
①先行研究と異なり,温度の変化が一様でなかったのは,表面の条件を統一していなかったために,表面の色の反射率が関係しているのだと考えた。
②気温や日射量が多いほど,表面の温度変化の差が顕著にみられ,気温や日射量が少ないほど,その差が  どの用土も一様になっていくことが明らかになった。


表面を砂利で覆ったときの土の表面温度の変化
(1)目的
 表面の土の色による温度変化の要因を排除することで,Ⅴ.の実験と違いが出るかを調査して,土の表面温度が下がる要因を特定する。
(2)方法
①使用道具…道具A,砂利
②実験手順
ⅰ) 用土400㎤の上に50㎤の路面色の砂利を敷き500㎤容器のビーカーの中に敷き,日光に十分に用土を晒しておいた。
ⅱ) 散水直後を0分とし,V,の実験と同様に行った。表面温度を減少させるため,散水量を200mlにした。
(3)結果
表3.用土の表面温度の逓減率 (用土は表1の表記)
用土   C   A   D   E   F   B
t(℃)  +13.3  +14.4  +19.3 +21.7  +22.2 +28.8
(開始前)天気:快晴,風:無風,気温:32.0℃,湿度:69%
(終了後)天気:快晴,風:北1m/s,気温34.0℃,湿度65%

 全体的に表面温度が上昇しており,時間がたつにつれて,温度上昇の差が顕著になっていった。今回もボラ土の温度上昇が最も抑制されており,全体的な温度抑制の順番は変わらなかった。また,最も表面温度の高い土と低い土の温度差は,14℃程度であった。実験終了時の用土の様子は,ボラ土,パーライトは表面が乾燥しきっており,他の用土は,湿り気を感じた。

考察
表面の温度がどれも上昇したのは,表面の砂利の色が,黒いためであることと予備実験や先行研究に比べて,昼間の真夏に測定したために太陽高度が高くなり,日射量が多くなったためだと考えられる。


各用土の性質の調査
各用土の蒸発量の比較
(1)目的
 基本的に蒸発した時の気化熱によって,周囲の温度を下げるといわれている蒸発がどの程度起こっているかを調べて,温度の減少量との関係を調べる。
(2)方法
水100mlを散水する前とその100分後の土に含まれるそれぞれの水の量を測り,水の量の差を計算することで,蒸発量を求めた。
(3)結果
バーミキュライトや赤玉土が蒸発量の多く,燻炭やパーライトは,蒸発量が少ない用土となった。

各用土の保水力や透水性の比較
(1)目的
 長時間にわたって降水による雨水を蒸発することができる保水力と空気の通りやすさである通気性の2つを調べて,温度の減少量との関係を調べる。
(2)方法
①実験道具:装置,水500ml,水切りネット,ラップ
②実験方法
ⅰ) 用土に含まれる水分を日光で,よく乾かし右の装置に土を詰めた。
ⅱ) 200㎖の水を上からかけた。
ⅲ) 60分間後の保水量をバットに存在していた水の量を量り,決定した。
ⅳ) このときの用土の様子や用土の内部をスコップで掬い取り,なるべく人為的な力が加らないようにした。
(3)結果
表4.実験前後の様子 (用土は表1の表記)
土                  特徴
E       ・表面に水がたまり,土中に水が浸透しなかった。
        ・用土の側面から水が流れるものもあり,正確な保水量を測れなかった。
C       ・散水直後に土の粒子から「キュー」と音が鳴っていた。
        ・粒子同士がくっつくことはなく,間隙は大きかった。
F       ・1つの単粒構造になっており,間隙が小さかった。
B       ・バーミキュライトよりもより粒子が互いに絡まりあい,単粒構造が組織されていて,間隙は小さかった。
A       ・微量の砕けた小粒子が,大粒子の周りにくっついた。
        ・間隙は,乾燥時とあまり変わらなく,大きかった。
D       ・結合の弱い単粒構造になっていたが,間隙は大きかった。

土の保水量が良くなるほど,透水性は悪くなることが分かった。30分後以降は排水量が殆どなかった。

各用土の光の反射具合の比較
(1)目的
 土の光の反射率を求め,温度上昇との関係を調べた。また,道路の輝度が大きいと運転者にとって,走行に危険性が生じてくる。安全性のために運転手から見る道路の方向から土を視ることによって,どれほど光の反射を吸収するのかを調べた。
(2)方法
ⅰ) 物理教室にある白熱電球を借りて,日の沈んだ部屋の電気を消して,下のように設置した。
ⅱ) 照度計を用いて,光度を求めた。
ⅲ) まぶしさの単位輝度Lθ(cd/㎡) は下のような公式で求められる。今回は,同一の光源を用いて,光度を相対的に比較した。         
(3)結果
白いパーライトは値が低く,黒い燻炭は値が大きかった。それ以外の土では,見た目の色に関わらず,値はそれほど変わらなかった。

調査の考察
①表4と図8の関係から,単粒構造となると水の保水量が大きくなるが,間隙は小さくなり通気性や透水性が弱まる。
②図11から,燻炭の値が極端に低く,パーライトの値が極端に大きいことから,土の明度と光の反射量の多さは比例していることが考えられる。
③表4.と表2・3.の関係から,通気性が良いことによって熱が土にこもらないような仕組みになっており,アスファルトとは異なり土の物質そのものが温まらない仕組みになっていると考えられる。
④表4.のボラ土の「キュー」という音は,粒子に穴が開いているために水が粒子の内部を通る時の衝突音であると考えられる。そして,ボラ土が赤玉土よりも蒸発量や保水量が少なくても粒子そのものの通気性が良いためにボラ土のほうが温度の逓減率が高くなった。これは,バーミキュライトの蒸発量や保水力が高いが,間隙が小さかったことによる逓減率の低さも同様に説明できると考えられる。
結論
結論1.表面温度に関わる最大の条件は,間隙の多さや広さによる通気性である。
結論2.ヒートアイランド抑制に最も有効な土はボラ土だ。
結論3.今回はビーカーの底に水が溜まってしまい,保水力の効果を十分に見られなかったので,そこは,今後の課題点の1つである。
今後の課題
・排出された水と土が接しないような装置で,できるだけ夏の時期に表面温度を測る実験を行う。
・バーミキュライトに手を加えて,通気性が良くなるようになると今以上の逓減率の高さになることが期待できるので,そのような複数の土を組み合わせることで各性質の相乗効果をもたらすような実験を行う。
・舗装道路に必要なより多くの条件を調査する。

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