大分県立大分西高等学校

効率の良いトレーニング方法は何か~大分県の健康寿命を延ばすために~

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高等学校
大分県立大分西高等学校

発表形式

スライドレポート・論文

研究の概要

健康寿命を延ばすために有効なトレーニングを考案し、県民の健康意識の向上に貢献したいと考えた。

生徒のアウトプット

実践の背景
研究の背景
 きっかけは私の祖父と祖母のことだった。私の祖父はもと漁師で歳をとっても、とても元気にしていたが癌を患ってしばらくしてから今まで難なく歩くことができていた普通の段差にもある日突然躓くようになってしまったりと、運動機能が急激に低下していくのが見てとれた。祖父と祖母の家には、私の叔母が住んでいたので祖父が立ち上がる時や歩く時などに支えるのは叔母だった。だから祖母が祖父を抱き抱えるという場面はなかった。しかし、私の祖父の家のような家の形態は現在少なくなっており、多くの高齢者が夫婦または一人で生活している。そこで、私は大分県の課題の一つである高齢化社会と大分県の平均寿命と健康寿命の差に着目してみた。平成二十一年の調査によると、大分県民の「平均寿命」は、男女ともに全国トップクラスであるが、健康上に問題のない状態で日常生活を送ることができる期間である「健康寿命」は、全国平均を下回っているため、寝たきりになるなど健康が理由で日常生活に制限のある期間の長さは男性が一位、女性が四位という状況にあった。このことから高齢化が進む中で、多くの高齢者が制限がある日常やそれによって老老介護やなどの介護生活を送っている人も増えていることがわかる。なので私は健康寿命を伸ばし、日常に制限がある期間を短くすることで、多くの大分県民が元気で活発な老後生活を過ごせ、将来介護生活などに苦しむ人々の負担を少しでも減らすことができるのではないかと考えた。

テーマ設定の理由
健康寿命を延ばすためには寝たきりにならないように骨や筋肉を維持するよう、若いうちから運動を継続しなければならない。しかし、20代〜50代の人は働き盛りである多くの人々が忙しい毎日を送っており、それほど運動に時間を割くことはできないし、本格的できつい運動を毎日続けられる人は少ないだろう。そこで、働き盛りの20代から50代の人が毎日続けられ、短時間でも効果がある健康寿命を延ばすために効果的なトレーニング方法はないのかと考えた。また、健康寿命と、「自分が健康であると自覚している期間」がほとんど同じであるという研究結果が出ていることからこのトレーニングをすることで健康に対する意識が高まりさらに健康寿命が延びるのではないかと思った。
健康寿命を伸ばすということはそう簡単に成し遂げることができるものではないが、このようなトレーニングを作成し、大分県に広めることによって、大分県民の健康寿命が少しでも伸びることや、県民の健康意識の向上に貢献できたらいいと思う。

先行研究
日本自体が平均寿命が世界の中でもトップを争うほど高い。その原因として、医療レベルが向上したこと、国民皆保険で医療負担が少なくなり、気軽に病院にかかることができること、日本自体が健康意識が高く、人間ドックに行く人がとても多いこと、和食の文化があるため、他の先進国よりも脂肪の摂取量が少ないことが挙げられる。
すでにされている取組みとして大分県は、2013年に「第2次生涯健康県大分21」を策定し、今後10年間で「健康寿命日本一」になることを目標に掲げている
例として、企業が従業員への検診受診の呼びかけをする事や事業所対抗運動イベントへの参加を促すことを、県がサポートしていたり、それぞれの地域別に塩分のとりすぎや野菜不足などの課題を出し、その課題を解決するためにその地域の人々に呼びかけたりしている。
しかし、ランキングを見ると、「第二次健康県大分21」を制定する前の年とした後の年の健康寿命の全国ランキングを比較してみたところ、男性が16位から36位、女性が10位から12位と逆に順位が下がってしまっていることがわかった。
 また、国では、ロコモティブシンドロームを予防するため、ロコトレいうトレーニングを推奨している。ロコモティブシンドロームとは骨や関節、筋肉などの運動器の衰えが原因で、立つ、歩くといった機能が低下する状態のことをいい、進行すると要介護や寝たきりになるリスクが高くなる。
ロコトレの内容は、「開眼片脚立ち」を左右各一分間と「スクワット」を5〜6回をそれぞれI日サンセット行うというものである。このトレーニングは5分ほどの運動を毎日続けることによって、寝たきり防止に役立つとされている。
 健康寿命を伸ばすためにはロコモティブシンドロームの予防、自分の体をコントロールできる能力を維持することで、脂質の燃焼、生活習慣病や未病に対する運動として取り入れられる「有酸素運動」の実践が重要である。有酸素運動とはウォーキングやジョギングなどの長時間を党して行う運動のことで、生活習慣病や未病(発病には至らないものの軽い症状がある状態)に取り入れられている。
現在日本人の3人に一人が運動不足とされている。その理由は、デスクワークによって、あまり動かない職業が増えたこと、昔は運動の一つであった家事(拭き掃除や掃き掃除)が今はロボットやボタンひとつで行うことができるようになってしまったこといだ。また、運動不足は喫煙、高血圧につぐ死亡原因の第3位にランクインしている。なぜ運動不足が死亡原因になっているのかというと、、運動不足は生活習慣病になる原因の一つなので生活習慣病になると動脈硬化を引き起こし、心筋梗塞や脳梗塞になり最悪の場合死亡するというケースが多々あるのだ。
一方で、音楽には精神面・免疫機能面に対する有効性や、主観的運動強度・運動遂行に対する有効性が見られる。
具体例として、音楽を用いた体操と、音楽を用いない体操の2つのグループに高齢者を分け、参加率やその後の運動率、継続性などをみたところ、音楽を用いた体操を実施したグループの方が音楽を用いなかったグループよりも参加率やその後の運動率・継続率が高かったという実験結果が出た。
また、日赤体操というBPM120の4分20秒の体操を実施し、参加者に感想を聞いたところ、「楽しくできた」、「あっという間に終わった」、「音楽に合わせて気持ちよくできた」などの感想が多くみれれたという。
 そして、運動には健康増進だけでなく、集中力が高まるという効果があるということがわかった。
動的ステレッチや静的ストレッチだけでなく、足踏みなどの簡単な運動も集中力が向上することがわかった。集中力を向上させるための運動は全身が疲れるような運動ではなく、十分程度の軽い運動の方がいい。
 
問題点や課題
私が思う大分県の課題は
「第二次健康県大分21」制定により健康受診などに行く人は増えたものの、運動不足の人が減ったわけではなく、健康寿命を伸ばすためにはもっと県民に積極的に運動に取り組んでもらう必要がある
生活習慣病などの運動不足が一因である病気の発症率がいまだに上がっている

・従来から取り組まれている ラジオ体操の問題点
体幹動作ではなく、手足動作を意識させている
動作そのものを指導せず、動かし方しか言わないので、間違った動作を
  している人が多い
腰や膝に負担がかかる動作が多く、高齢者にとっては危険な体操とも言える。

・ロコトレの問題点
 ①知名度が低く、取り組んでいる人が少ない
 ②動作が簡単すぎて若者には物足りない
 ③音楽がないので、継続しにくい
仮説
先行研究をこのことから、私はロコトレとラジオ体操の長所を組み合わせ、体幹動作を中心とした音楽に合わせたダンスを作ればよいと考えた。一つのダンスを世代を問わず行うのではなく、年代別に分けたダンスを作り、その人その人に合ったものを健康増進のために行ってもらう。
この運動を未来の自分、将来の自分がより楽しい老後生活を送るためのダンスという意味を込めたミライダンス(ミラダン)と名付けた。
コロナの自粛期間中に音楽に合わせたトレーニングをしてみて、楽しく継続することができたという経験と、先行研究からこのダンスも音楽と合わせたものにすことにした。
この「ミラダン」が大分県に普及すれば、20代から50代の運動不足の年代の人達にも、短い時間で効率のよい運動ができるのではないだろうか。
この仮設の目的は運動不足を改善することで要介護期間を短縮し、将来の老後生活をより良いものにするだけでなく、介護者の負担も軽減することである。
生活習慣の一部に入れる方法としてとして、企業には始業前に、学生には朝のHR前に、高齢者にはラジオ体操のように、朝、1つの場所に集まって「ミラダン」を行ってもらう。
若者や、中年層は朝体を動かすことによって、仕事や学習の集中力が高まり、効率の上昇が期待できる。高齢者は地域の人と交流することにより、孤独感が和らぎ、健康増進だけではなく、高齢者の一人暮らしなどによくある孤独死を予防できるのではないかと思う。
また、「ミラダン」に何段階かレベルをつけることで、その人にあったレベルや、次のレベルのロコダンができるように努力するといったロコダンに対する意欲が掻き立てられるのではないだろうか。他にも、飽きさせないように7日分違うものを作るなどの工夫もできる。
そこで私は働き盛りの20代〜50代の人たちを対象としたダンスを作成してみることにした。その中で単に健康増進のためのダンスというだけではなく、集中力も向上するということを全面に出せば、学業や仕事に集中するためにも毎朝取り組んでくれる人も増え、多くの学校や企業で取り組んでくれるのではないかと思った。
そして、自分独自の「ミラダン」を作成していく中で二つの疑問が上がった。
それは、
1 エアロビやダンスなどの短い運動でも集中力を高めることはできるのか。
2.アップテンポとローテンポの曲に集中力の違いはあるのか。
この二つの疑問を解決するために、二つの実験を行なった。
調査・研究内容
研究の方法
 実験① 疑問:短い運動でも集中力は高まるのか
実験方法:集中力を比較するために「カウントアップ」というゲーム(https://www.p-game.jp/game2/)を用いた。このゲームは画面に1〜24の数字がランダムに配置されており、その数字を1〜24まで順番にタップするというものだ。全てをタップし終えるまでの時間とミスを見る。この実験では、対象者10名の「カウントアップ」のタイムを測り記録する。
慣れなどを考慮するため、一日置いて音楽があるエアロビをした後に「カウントアップ」をしてもらう。
そしてその二つのタイムとミスの変化を調べる、というものだ。

実験② 疑問:アップテンポとローテンポの曲に集中力の違いはあるのか
体幹動作を鍛える動きなどを取り入れた「ミラダン」の振り付けを作りアップテンポの音楽を用いたものとローテンポの曲を用いたものの二種類のダンスにした。振り付けは拍の違いや曲の長さにより多少の違いはあるが、ほとんど同じ振り付けにした。アップテンポの曲として「NiziU」の『Make you happy』、ローテンポの曲として「嵐」の『One love』を使用した。今回は集中力を図るために百ます計算を用いた。対象者は10人である。

実験方法
1.百ます計算を解いてもらう
2.次の日にアップテンポの「ミラダン」か、ローテンポの「ミラダン」どちらかを選んで踊ってもらい、その後百ます計算を解いてそのタイムを記録する。
3.その次の日に前日しなかった方のテンポの「ミラダン」をした後、前日と同様に百ます計算を解いてタイムを記録。
なお、百ます計算の問題は、内容は異なるものの難易度の等しいものを三日分用意し対象者全員は同じものを解いてもらった。


結果
実験① 結果
対象者    エアロビ前    エアロビ後    後と前のタイムの差
A       9.896      10.808      +0.912
B       16.063      11.677       -4.386
C       15.706      15.101       -0.605
D       14.208      11.493       -2.715
E       15.263      13.224       -2.039
F       19.000      16.470       -2.53
G       15.010      12.612       -2.398
H       17.024      17.525       -0.501
I        13.662      11.574       -2.088
J       10.654      9.270       -1.384

この10名の実感者のタイムから平均タイムはエアロビ前が14.6486秒、エアロビ後が12.9754秒となった。
このことからエアロビ前とエアロビ後では、平均1.6732秒タイムが縮んだことがわかった。エアロビなどの短い時間でも集中力が向上することがわかった。しかし、必ずしもタイムが縮むというわけではなくタイムが増えてしまったものも見て取れた。

実験② 結果
対象者  最初の百ます計算  アップテンポ  最初のタイムとの差  ローテンポ  最初のタイムとの差
A     3分9秒       2分20秒    -49          2分35秒   -34
B     1分57秒       1分35秒     -22          1分36秒   -21
C     3分20秒       2分49秒    -31           2分48秒  -32
D     2分32秒       2分18秒     -14           2分22秒   -10
E     1分43秒       1分32秒     -11           1分31秒   -12
F     2分33秒       2分16秒     -17           2分10秒   -23
G    2分5秒       1分36秒     -29          1分47秒   -18
H    3分17秒       3分01秒     -16          3分05秒   -12
I     2分05秒       1分46秒     -19          1分51秒    -14
J    2分46秒       2分13秒     -33          2分16秒   -30

平均   2分33秒       2分8秒     −24秒         2分13秒   −20秒

この10名のから計測した平均タイムではアップテンポとローテンポのにはほとんど差はなかった。
結論
考察
実験①の考察
実験①では、平均タイムがエアロビ前とエアロビ後で縮んでいるということから、エアロビなどの短時間の運動でも集中力の向上が見られた。しかし、実験者Aと実験者Gのタイムは伸びているということから、必ずしも集中力が向上するというわけではなく、集中力の向上にも個人差があることがわかった。 
このことから、朝礼前などに毎日「ミラダン」を行うことは運動習慣を身につけるだけでなく集中力の向上に効果があるということがわかった。

実験②の考察
実験②では、最初に解いた百ます計算よりもアップテンポ、ローテンポの曲を踊って計算した方が、20秒もタイムが縮まった。そして、アップテンポの曲、ローテンポの曲、どちらも集中力が向上すると言える。よって、「ミラダン」に使用する音楽は、アップテンポ、ローテンポのどちらでも良いということがわかった。

まとめ
今回の実験の結果から勉強や仕事を始める前にダンスを行えば、集中力が向上し、運動習慣が身につくので、健康寿命を伸ばすことができるという結論至った。集中したい時に「ミラダン」を行うことは、まさに一石二鳥になる。また、アップテンポの曲でもローテンポの曲でも著しく集中力が向上することがわかったので、振付だけを決めて、自分の好きな曲に合わせて「ミラダン」を行えば毎日の継続につなげることができるという新たな可能性も見えた。
今後の課題
今後の課題

実験者の人数
今回の実験結果は、新型コロナウイルスの影響などもあって実験を行なってもらった人が、全員高校三年生と実験者の年齢幅がとても狭かった。なので、実験する人数をもっと増やし、若者だけでなく、中高年の人たちにも「ミラダン」を行ってもらい、そのデータを集めたいと思う。

高齢者にとってのミラダン 
今回作成したのは、働き盛りな人たちを中心とした、まだまだ運動機能に支障のない世代にとっての将来寝たきりなどの日常生活に制限がない生活を送るためのトレーニングを提唱した。
しかし、今まさに寝たきりや腰痛、膝の痛みなどで悩んでいる高齢者の方々へのトレーニングは作っていない。活発に少しきついトレーニングも含めた、今回のミラダンの振り付けでは高齢者にとってはなかなか厳しいと思う。なので、高齢者にとっても少しでも運動しやすいローテンポの曲を使用したものや、体の一部分に痛みがある人にはその部分をほぐすような振り付け、体の一部分しか動かせない人にはその部分の動きを少しでもスムーズにするための振り付けなど、多岐多様に振り付けと音楽を組み合わせることができるようなものを作成したい。

「ミラダン」を広める方法
「ミラダン」を作ったはいいが、それを多くの人に認知してもらい、毎日取り組んでもらわなければ意味がない。今私が考えている広める方法は、県の学校の児童、生徒、学生に学習前に「ミラダン」を行ってもらう時間を作ってもらうこと、企業の朝礼で「ミラダン」を社内全員で行ってもらい、仕事まえの体ほぐしにしてもらうこと、もしくは仕事を始めてだんだんと集中力がきれたり、肩が凝って疲れが出てくる午後の3時くらいに「ミラダン」を行なってもらって、仕事の合間の息抜きにしてもらうこと、高齢者の「ミラダン」はラジオ体操のように毎朝近くの公園などに地域の人たちで集まって「ミラダン」を行ってもらうこと。これは高齢者にとっての朝の習慣づくりだけでなく、地域の人々と一緒に行うことで地域の人との交流、会話をして孤独感をなくし、孤独死などを予防するというメリットもある。

「ミラダン」を継続させる工夫
365日毎日同じものを行えば流石にどんな人でも飽きたり、怠けたりする人も出てくるだろう。だから、それを予防するために、「ミラダン」をレベル分けしたものや一週間ルーティーンで音楽を変えた「ミラダン」などを作れば怠けにくくなるのではないかと思う。なので、このような工夫をすることで「ミラダン」が継続しやすくなるのかなども今後の実験で調べてみたい。

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