大分県立日田高等学校
ジビエで日田を明るく
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学校・学年
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高等学校
大分県立日田高等学校
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発表形式
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レポート・論文
研究の概要
ジビエを利用し、地元の祭り「千年あかり」に貢献したいと考えた。先行研究ではイノシシの脂身からキャンドルを作ることに成功していた。しかし、独特のにおいがついていたため、それを消す以下の5つの実験を行い、キャンドルの作成を行った。
生徒のアウトプット
- 実践の背景
- 概要
ジビエとは野生の自然鳥獣の食肉を意味するフランス語。近年、鳥獣被害は深刻な問題となっており、その結果、ジビエは食材として利用されるようになった。肉部分は広く利用方法が確立されているが脂身部分はほとんどが捨てられていたため、私たちはその脂身部分に注目した。さらに、それを利用して、地元の祭りである「千年あかり」に関する地域貢献を行いたいと考えた。「千年あかり」には,多くの竹灯籠が使われており、先行研究ではイノシシの脂身部分からキャンドルを作ることに成功していた。しかし、そのキャンドルにはイノシシの脂身部分独特のにおいがついていたため、それを消すために以下の5つの実験を行い、「千年明かり」に使用できるようなキャンドルの作成を行った。
(ⅰ)スギ、ヒノキを使って、イノシシ脂に香りづけする実験
(ⅱ)ユズ、レモンを使って、イノシシ脂に香り付けする実験
(ⅲ)イノシシ脂に混ぜてもユズの香りがするような割合を探す実験
(ⅳ)凝縮したエッセンスを使って、イノシシ脂に香り付けする実験
(ⅴ)牛乳、生クリームを使ってイノシシ脂を無臭に近づける実験
研究背景・目的
昨年度から大分県日田高等学校ではイノシシの肉、脂身についての研究を行っていた。先輩方の研究では、体内外両面から健康の促進をはかっており、栄養分が豊富なジビエの肉を柔らかくして食べやすくする食の面の研究、脂をバームに加工し保湿力や柔らかさについて調べる美容の面の2つの研究を行っていた。それらの研究から、ヨーグルトや柚子胡椒、クロモジなどの身近なものでジビエの持つ独特の硬さや臭みを軽減することができていた。それらの研究結果から、今年度はイノシシの脂身のみに注目して研究を行った。
現在、全国で鳥獣による農業被害が問題になっている。大分県でもシカやイノシシによる農業被害は大きな問題とされている。これらは、農業被害を減らすための対策を行うことで減少傾向にあるが、対策には多くの費用がかかっている。ジビエの肉部分を販売して利益を得ることもできるが、それだけでは限界があるため、他の部分を使うことはできないかと考えた。ジビエの肉部分は栄養価に優れており、料理に使われて、調理方法も多くある。しかし、ジビエの脂身部分の活用方法はなく、そのまま捨てられてしまっている。そのため、捨てられてしまうジビエの脂身部分を有効活用することはできないかとし、ジビエの脂身を使ったものを作ることで日田の活性化やジビエのイメージ向上に繋がるのではないかと考えた。 - 調査・研究内容
- 先行研究より、脂身を溶かすと不純物が残り、脂が完全に溶けきってしまわないことが分かっていたため次のような方法で脂身を処理したものを実験1~4には使用した。また、実験5には、この処理を行う前の脂身を使用した。
脂身の溶かし方
イノシシ脂 30gに対して
湯煎で溶かした場合 50分
レンジ 600(W)で溶かした場合 3分40秒、かかった。
脂身の不純物を取り除く
イノシシ脂50gに対して
湯煎で溶かした場合 50gから25g
レンジ 600(W)で溶かした場合 50gから40g、に減少した。
以上の結果から、湯煎で溶かすのは時間がかかり、最終的に得ることができるイノシシ脂の量が少なくなってしまうため、レンジで溶かした後、不純物を取り除く方法で脂身の処理を行った。また、以下の実験1~5での「におい」「香り」の判定は主観である。
実験1)
目的
イノシシ脂にある独特なにおいを消すためにスギやヒノキの枝、葉を使って、イノシシ脂に上から香りをつけ、スギやヒノキのような自然の香りがするリラックス効果のあるキャンドルを作る。
私たちの住む日田市にはスギやヒノキが多くあり、それを使うことで日田の活性化にもつながると考えた。今回の実験ではスギとヒノキを香りづけに使用した。
ヒノキに含まれる芳香物質フィトンチッドには、優れた鎮静効果があり、脳のα波の発生を促進させる。精神を安定させる効果があり、嫌なことがあったり、辛いことがあったりしたとき、情緒不安定なときに使用すると、高ぶった心や不安な心が鎮まり、気持ちが穏やかになる。軽いうつ症状なら落ち着くとも言われている。ナチュラルな睡眠導入剤としてはヒノキの精油が使われている。鎮静作用が副交感神経を優位にし、自律神経を整え、脳や心身をリラックスさせ、安眠へと誘う効果がある。
方法
①不純物を取り除いたイノシシ脂(30g)をキャセロールに入れたものを4つ用意する。
②スギの枝(10g)、スギの葉(10g)、ヒノキの枝(10g)、ヒノキの葉(10g)を細かく
刻み、お茶パックに入れる。(図1,2参照)
③①のキャセロールにそれぞれ②を入れ、お湯を沸かした鍋の中で15分間加熱する。(図3,4参照)その後それぞれをアルミカップに入れキャンドルの芯をつけ、冷やし固める。(図5,6参照)
結果
スギは、加熱している段階で枝も葉も香りがしていなかった。ヒノキは、加熱している段階では枝も葉も香りがしていたが、冷やし固めるとどちらも香りがしなくなった。また、火をつけた時、4つとも付けた香りはせず、イノシシ脂の独特なにおいのみがした。
考察
結果より、スギやヒノキでは香りの成分が弱かったために、イノシシ脂のにおいに負けてしまい、香りがつかなかったと考えた。そのため、より強い香りで香りづけすることで冷やし固めたり、火をつけたりしても香りのするキャンドルを作れると考え、実験2を行った。
実験2)
目的
実験1より、スギやヒノキでは、香りが弱くイノシシ脂に香りがつかなかったため、1つの個体としてより香りが強い柑橘系の果物を使って、イノシシ脂に香りをつける。柑橘系の果物としてレモン、ユズを使用した。レモンは、冬場に室内が乾燥する場合に水を入れたポットにレモンの皮を入れ、ストーブの上に置いたり、低温でグツグツと煮込むことで空気中に湿度と一緒にいい香りが広がる。また、ユズはユズの皮を手に入れることができなかった。以上のことから、ここではレモンは皮、ユズは果汁を使って実験を行う。
方法
①不純物を取り除いたイノシシ脂(30g)をキャセロールに入れたものを2つ用意する。
②刻んだレモンの皮(20g)は、①のキャセロールに入れ、イノシシ脂とともにお湯を沸かし
た鍋の中で15分間加熱する。(図7,8参照)
③ユズ果汁(15㏄)は、①のキャセロールに入れ、溶かしたイノシシ脂にそのまま混ぜる。
結果
作った時はレモンの皮もユズ果汁も香りがしていたが、冷やし固めたり、火をつけてみたりするとレモンもユズどちらも香りが消えてしまい、イノシシ脂のにおいがすることが分かった。
考察
結果より、イノシシ脂に対して付けた香りの量が少なかったのではないかと考え、イノシシ脂と香りを混ぜ合わせても、香りがするような割合を見つけるために実験3を行った。
実験3)
目的
イノシシ脂とユズ果汁を混ぜたものを冷やし固めたり、火をつけたりしても香りがする、イノシシ脂とユズ果汁の適切な割合を探し出す。
方法
①不純物を取り除いたイノシシ脂(23g)を紙コップに用意する。
②①の中にエタノール76.9%(8g)とユズ果汁(40g)を一定の割合で加えていき、イノシシ脂のにおいよりユズの香りが強くなったところで、その割合を求める。
結果
脂:ユズ果汁=10:9の時にユズ果汁の香りがイノシシ脂のにおいより強くなるようになった。また、この割合以上のユズ果汁を混ぜると全てがきれいに混ざらず、液状になりキャンドルにならなかった。イノシシ脂とユズ果汁を混ぜ合わせた時に硬く混ぜにくかったが、混ぜる時に、先輩方の先行研究で柔らかくするために使っていたオリーブオイルを少量混ぜることによって混ぜる感覚が柔らかくなり、クリーム状になった。
考察
結果より、より多くの量のユズ果汁を入れることでイノシシ脂に香りがついたが、水分量が増え、液状になってしまいキャンドルにならなかった。そのため、より少量で香りがつくエッセンスを使用することによって、液状になるのを防げるのではないかと考え、実験4を行った。
実験4)
目的
液状になることを防ぐために、少量で香りをつけることのできる香りが凝縮されたエッセンスを使い、火をつけた後も香りのするキャンドルを作る。
方法
キャンドルの芯にのみ香りをつけたものをa)(図12参照)、イノシシ脂にのみ香りをつけたものをb)(図13参照)、キャンドルの芯、イノシシ脂の両方に香りをつけたものをc)(図14参照)とする。
a)芯のみに香りをつけたもの(図13参照)
①キャンドルの芯(タコ糸)をヒノキエッセンス(図11参照)に浸し、芯に香りをつける。
②溶かしたイノシシ脂を小さな容器に入れ、①の香りをつけた芯を入れ、冷やし固める。
b)イノシシ脂のみに香りをつけたもの(図14参照)
①不純物を取り除いたイノシシ脂を小さな容器に入れ、ヒノキエッセンスでイノシシ脂に香りをつける。
②①にキャンドルの芯を入れ、冷やし固める。
c)芯、イノシシ脂両方に香りをつけたもの(図15参照)
①キャンドルの芯をヒノキエッセンスに浸し、芯に香りをつける。
②不純物を取り除いたイノシシ脂を小さな容器に入れ、ヒノキエッセンスでイノシシ脂に香りをつける。
③②に①の芯を入れ、冷やし固める。
この実験ではa)、b)、c)すべてキャンドルの芯に、炎を安定させるため、ろうをつけて固めてある。
結果
①のキャンドルの芯のみに香りをつけたもの(図12参照)と、②のキャンドル自体にのみ香りをつけたもの(図13参照)では、微かにしか香りがしなかった。③のキャンドル自体とキャンドルの芯両方に香りをつけたもの(図14参照)は今まで作った中で1番香りがするようになった。
考察
結果より、凝縮されたエッセンスを使うことによって、イノシシ脂に香りをつけることができた。また、強い香りでないとイノシシ脂のにおいに負けてしまうことが分かった。
ここまでの実験では、上から香りをつけてイノシシ脂のにおいを消そうとしていたが、上から香りをつけることは、イノシシ脂自体のにおいを消す根本的な解決方法にはなっていないと考えた。それを踏まえて、身近にあるものにイノシシ脂自体のにおいを消す成分がないかと考え実験5を行った。
実験5)
目的
牛乳や生クリームに、イノシシ脂の独特なにおいをとる成分が含まれているかを確かめる。
牛乳とは、生乳を殺菌などして直接飲めるようにしたもので、無脂乳固形分8.0%以上、乳脂肪分3.0%以上と決まっている。これに対し、生クリームとは、生乳から脂肪を分離したもので、乳脂肪18%以上のものであり、乳脂肪クリームには、乳脂肪40~50%が含まれている。これらのことから、乳脂肪の割合によってにおいの取れ方に違いがあるのかを、この二つを使って比較する。
また、牛乳のたんぱく質は、コロイド粒子になるとにおいを吸着する作用があることから食品の匂いを消すことができる。以上のことより、牛乳と生クリームを使って実験を行う。
100% PURE ESSENTIAL OIL
Hinoki ひのき(木) 10ml
品名 ヒノキ(木)精油
学名 Chamaecyparis obtuse
原産国 日本
抽出部位 木部
製法 水蒸気蒸留
を使用
方法
①溶かしていないイノシシ脂(10g)をシャーレに入れたものを2つ用意する。
②牛乳(大さじ5)、生クリーム(大さじ4)をそれぞれ①のシャーレに入れる。
③②のシャーレを常温に置いておき、30分・1時間・1日・5日、と時間ごとにイノシシ脂の独特なにおいが取れているかを確認する。(図15参照)
結果
牛乳では、15分・1時間・1日置いたとき牛乳の臭いがした。生クリームでは、30分・1時間・5日置いたとき脂の臭いがした。また、牛乳の5日、生クリームの1日置いたときではデータが取れなかった。
考察
実験5より、実験がまだ途中のため、結果に対する考察はまだできていない。 - 今後の課題
- 木の葉や枝、柑橘系の果物を使って、イノシシ脂に香りをつけようとしたが、香りの成分が弱く、イノシシ脂の独特なにおいに負けてしまい、イノシシ脂に香りがつかなかった。ゆず果汁を使って、香りの成分を多くするとイノシシ脂に香りをつけることができたが、水分量が多くなってしまい、キャンドルにすることができなかった。香りが凝縮された正規品のエッセンスを使うことでイノシシ脂に香りをつけることができたが、目的に日田の活性化を考えていたため、正規品ではなく、日田に多くあるスギやヒノキ、ユズを使って香りをつけることが大事であると考えた。そこで、ジビエの脂の独特なにおいを取るための実験を行ったが、実験の結果を得ることができなかった。
今後は、身近なものでイノシシ脂の独特なにおいを取る成分を探す実験を行う。そして、この実験の結果を使って、弱い香りでもイノシシ脂に香りがつくか確かめる実験を行う。
また、今回の研究ではにおいの判定方法が班員の主観であったため、大学に協力してもらうなどして数値で表せるような方法を確立する。
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